斜面のレモンダグ|クワを抜いた日と、親愛なる迷い。The Day I Uprooted a Mulberry, and My Dear Uncertainty

レモン畑(Lemon Field)

■ この記事の献立
・場所:市民農園(鎌倉)土手
・季節:2025年11月
・作業:クワの伐根1本目
・道具:ノコギリ・スコップ
・背景:レモンを土手に植えようと思い土手を切り拓いていく話
・関連:斜面にレモンを植えたいから、クワを抜いた日。|Lemon Field Project


■ まず、ひとこと言われた
作業していると、こう言われた。
「大変なだけだから、やめた方がいい。」
手ごわい相手に四苦八苦している最中に、
いちばん聞きたくない種類の言葉だった。

これ、本当に抜けるのかな。
そもそも抜いていいのかな。
斜面での作業で体幹も心も揺らいでいたので、
その一言が余計に堪えた。

それが、やさしさからの言葉であるだけに沁みた。
優しさを超えて土地を知る人の、誠実な心配だった。

■ 根っこが地面を掴んでいた
土手の上に、私の圃場は乗っている。
その支えになってきた根を切り進めるたびに、
私は、この場所のバランスを壊している気がした。

迷いながら作業を続けていくと、やがて姿を現した。
地上部分を削除した桑の株の“本体”、
地下を走る太い根の塊。
長い年月、この斜面を支えてきた根だ。

ノコギリがしなる。
水分を含んだ個体なのに、音は乾いていた。
その響きが、斜面に小さく跳ね返る。

根を断ち、土をはがし、確かめる。
その繰り返しの中で――ふいに、景色が変わった。
大きな根を切り落とした瞬間、
クワは地面を離れ、静かに倒れた。

頼む新しい形を受け入れてくれ。

■ 今日の気づき

地面がフカフカというより、どこかスカスカしている。クワを抜いた瞬間、足元がグッと下がった。

そこにあったはずの土が、抜けたように感じた。この土地は、見た目以上に“軽い”。

だからこそ、形を変えるときは、さらに注意が必要だと気づいた。

■考える時間
この日はここで作業を終えた
レモンの揺れる風景よりも
今はこの作業に想像力が必要だ。

クワはまだ4本ある。
今日のクワは小さい方だと思う
一方的に撤去すれば土手にダメージは確実だ。

この土地にとって何が正しいのか。
まだ同じ地図の上に描き切れていない。

『壊すと同時に造る』。
たぶんいま向き合っているのは、そういう作業なのだと思う。

これまで私は、十数カ所の小さな工場をつくってきた。
リリースされていないものを合わせれば、
無数の曲(プロダクト)を書いてきた。

形をつくる仕事のそばには、
いつも「壊すこと」と「造ること」が同時にあった。
そしていま、この斜面で向き合っている感覚は、

親愛なる迷いである。

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