「黒マルチの下で目を覚ます力」
黒マルチの穴の中に、ほんの少しの動きがあった。
土がわずかに持ち上がり、そこから緑の先端がのぞく。
それは、にんにくの芽。
秋の畑の静けさを押し上げるようにして、
確かな力が、地中から立ち上がってきた。
私は、この瞬間が大好きです。
植え付けから十日ほど。
見えない時間を過ごしたその芽が、
ついに外の世界へ向かって突き破ってくる。
雨上がりの湿った土が、ほんの少し割れて、
そこから息づくような生命の緑が見えた。
チョンと触れてみると、まだ柔らかい。
けれど、その下には強い根の意志がある。気がする。
目には見えないが、根はすでに広がり始めているのだろう。
土の奥で冬を迎える準備をしている。
どうやら、にんにくは冬が好きらしい。
芽が出る瞬間は、歓びというより、
「始まった」という感覚に近い。
静かな歓び。
この時しか描けないから美しい。
黒マルチを、地温を守るために敷いた。
けれど、芽にとっては一枚の壁でもある。
戦うためのシールドでもある。
土を押し上げる、
空へ向かおう。
地中の企みが噴き出し、
小さな突き上げとして現れる。
人間が整えた畝も、マルチも、
最終的には植物自身の力によって意味を持つ。
そのことを、にんにくの芽が教えてくれる。
風が通り、
黒いビニールの表面に光が反射する。
その下に眠っていた芽が、
ついに自分のタイミングで世界に触れる。
それは、立ち上がるというより、
目を覚ます瞬間。
隣の穴からも、その隣からも、次々と同期が登場する。
静かな土の中で眠っていた命が、
外の空気を吸い込み、光に触れる。
緑色。
それが畑の空気を一気に変えていく。
圃場防衛の拠点を築く。
にんにくは、春の勢いではなく、
秋の静けさの中から始まる。
冷たい風に押されながらも、
小さな芽は確かに前へ進んでいく。
その姿に、どこか自分の季節を重ねる。
誰のためでもなく、
誰に見せるためでもなく、
一人で立ち上がることはできる。
芽が顔を出すその瞬間、
小さな命が一つ、世界に合図を送る。
「ここにいる」と。
黒マルチの下で、
夜を越えたにんにくが、
今、静かに立ち上がった。
里山市民農園南西部に、
鉄壁の布陣がひかれた。
黒マルチが光を返し、
にんにくの列が静かに並ぶ。
根はすでに地下で連携を始めている。
大地を掴むのだ、空を掴むのだ。
が、土の静けさの裏で、別の物語は一歩先を行っていた。



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