先週までの畑は、静かな準備の時間。
米ぬかを混ぜ込み、苦土石灰をすき込み、土をふかふかに整えてきた。つもりです。
目には見えないけれど、微生物たちは確かに動き出している。はず。適度な活躍を期待しています。
土の中では小さなざわめきが広がり、畑全体が秋を待ち侘びている。
そして今日、ようやくその時がやってきた。大根の種まきだ。
赤い粒を置く瞬間
大根の種は小さな赤い粒。指先でつまみ、すじに沿って一粒ずつ落としていく。プロット魂が炸裂。
畝の土はさらさらで、夏の間に草や根を取り除いた場所は、思いのほか柔らかくなっていた。踏んだらわかるよ。
まるで「ここに根を下ろしていいんだよ」と土が語りかけているように感じられる。すじに落ちていく赤い種は、見ているだけで未来を想像させる。一粒一粒、興奮する。
やがて双葉を開き、本葉を広げ、白い太い根を地中に伸ばしていく。妄想。
その始まりが、まさにこの瞬間だ。
覆土と水やり
種の上にかける土は、ほんの1〜2センチ。厚すぎると芽が出にくく、薄すぎると乾燥に負けてしまう。「ちょうどいい」を意識して、手のひらでさらさらと土を落とす。
覆土をした後、軽く手のひらで押さえ、種と土を密着させる。私は、まぁまぁ、固めます。
最後にジョウロで水を落とす。
種が流されないように、やさしく、やさしく。かつ、ジャブジャブと。
土がしっとり色を変えていくのを確かめると、安心感が広がる。
これで、発芽への第一歩が完了した。
大根の種まきはリズム。まずは、正確なプロットだよ。しつこい?
畑作業と音楽をこじつけると、米ぬかを混ぜ込むのはイントロ。苦土石灰を撒くのはリズム。
そして今日の種まきが、いよいよメロディの始まりだ。
畝に並んだ赤い粒は、楽譜の上の音符のように見える。読めないけどね。
ひとつひとつが小さな音であり、これから畑全体で合奏が始まるのだと思うと、自然と胸が高鳴る。
間引きのイメージも描く
種をまいた瞬間から、もう先の作業が頭に浮かんでくる。
本葉が2〜3枚になった頃に1回目の間引き。
そして最終的には25〜30センチ間隔で一本立ちにする。
間引きは惜しさもあるが、大根にとっては大切なサバイバル。
畝の仲間と競い合い、やがて残った一本が大きく成長する。
その姿を思い浮かべると、今落とした小さな赤い粒もすでに「一本の大根」へと変わって見えてくる。
種まきの日の余韻
覆土を終え、水を与えた畝を眺める。
見た目は静かで、ただ土が広がっているだけに見えるかもしれない。
でもその下では、すでに物語が始まっている。
種は眠っているのではなく、力を蓄えている。
地温と水分を感じ取り、やがて殻を破って芽を出す準備をしている。
その姿を直接見ることはできない。
だからこそ、畑に立つ者は信じるしかない。
「きっと芽を出す」
「まっすぐ伸びる」
「今年も美味しい大根になる」
そう信じながら畑をあとにする。
秋大根の物語は、今日から始まった。
赤い粒が双葉に変わる日を待ちながら、畑は静かに、でも確かにリズムを刻んでいる。